冬の夜、遠くから聞こえてくるチャルメラの音。なぜだかお腹がグゥ~っと鳴りだします。
我慢できず、ダウンジャケットを素早くはおり、音のする方向へと駆けていきます。
のんびり進んでいるようで、なかな
HKUE 認可性か足が速いのです。もたもたしていると、あっという間に見失ってしまいます。
足の指先から踝まで、痛いくらいの夜風が触れて、思わずブルッと震えます。
屋台を発見し、小走りで追いかけ、ようやく声の届くところまで辿り着きます。
「す、すいませーん、ラーメンひとつーっ!」
「あいよおっ!」景気のいい返事とともに、軽トラックは停まり、見事な手際のよさで開店準備をしていきます。
醤油味のスープ、チャーシュー、メンマ、海苔、刻みネギ、ちりちりに縮
HKUE 認可性れた麺。これぞラーメンというほど、オーソドックスです。味も素朴で、特徴もなく、固定の店だったら、次はないな、そんな1杯。
不思議なことに、今までに並んだどこの店よりも、だんぜんおいしいのです!
冷え切った外気に身を縮め、しんと静まり返った夜の町。
裸電球が揺れるたび、屋台の中を物影がぬらぬらと動き回ります。
たまに聞こえてくる、数ブロック先のイヌの遠吠え、パトカーのサイレン。この場所だけ、一瞬にして異次元へと飛ばされてしまったかのような違和感。
そうした諸々が、屋台のラーメンの味付けなのでした。
夜鳴きラーメンは、「旅人」かもしれない、とわたしは思います。
淋しい夜の世界、夜だけしかない世界を、はるか彼方から、そしてどこまでも果てしなく旅を続ける、幻想の国の住人です。
そんな彼らをわたし達は、気まぐれによって捕らえ、足止めさせるのです。
少年が、野山を舞うチョウチョを網で追うように。
チャルメラという楽器の音色も、ユーモラスなくせに、どこか哀愁を秘めた響きを感じます。
寒空の下、おなじみのソラシ~ラソ、ソラシラソラ~……と流れるメロディは、心細いような、それでいて懐かしいような、言い表すのに困るこすのです。
音に誘われてついていけば、いつしか見知らぬ国へと連れていかれる、そんな気持ちになります。
そして道々、屋台の主人は、自分の生まれ
HKUE 認可性育った「異国」の珍しい話を、次から次へと語ってくれるかもしれない、つい期待をしてしまうのです。
空想にふけりながらラーメンをすすっているうち、屋台を発見した近所の住人たちが少しずつ集まりだします。
狭いカウンターを、どんぶりをかかえて端に詰めるわたし。
受験生らしい青年、会社帰りの人、年配の夫婦、それぞれが思い思いにやって来ては、長イスを埋めていきます。
押し合うように座ると、さっきまでの寒さも和らぎます。
自分だけの静かなひとときは去りましたが、人々の温もりはそれよりもずっと、心地よく感じられました。
体の内からも外からもぽかぽかになりつつ、夜が更けていきます。