
松下は驚いたように目を丸くした。
「そうですね、そういえばよく話をしていますね」
お互いなんとなく笑った。門脇は自分と松下は似ているんじゃないかと、そう思った。
「僕は今まで他人に自分の話をしたことがありませんでした」
きっと松下も、で解決していくタイプなのだろう。悩みの答えは、結局自分の内からしか生まれないということをよくわかっているに違いなかった。
「先生は俺のどこを好きだったんですか」
拍子抜けした顔は、すぐさまカーッと赤くなった。
「どうして俺だったのか、一度聞いてみたいと思ってたんです。俺にはそういうのが、よくわからなくて…」
赤い顔はすぐにその色が褪め、悲しそうな表情になった。けれどそ
暑期數學班れもほんの少しの間だけ。次の瞬間にはいつもの、感情の読めない、平坦な松下の顔に戻っていた。
「気になって仕方がなかったからでしょうか。僕にもそれ以上のものはわかりません」
話を振ったあとになって、自分が調子に乗って聞かなくていいことまで聞いてしまったことに気づいた。何か別の話題を、そう考えて頭に浮んだのはなぜか三笠の顔だった。
「俺にはとても仲のいい、親友と呼べる男が二人いるんですが、そのうちの一人が高校の時に自分がゲイだと俺に告白しました」
「勇気がある人ですね」
悩んだんだけどさ…そう言いながら、三笠は割合とあっさりと告白した。三笠のことを話題にしたが、それから先に話をどう展開しようなど門脇は考えていなかった。
「君は告白した親友のことを、その時どう思ったのですか」
「…驚きました。けど同性愛者だからと言って、それ以後に親友が変わるわけではなかったので、それはそれで納得できました」
松下は小さく息をついた。
「そうですか。それならよかった。僕もどちらかと聞かれれば、間違いなくそういう嗜好を持つ人間でしょうから」
「そういうのは、昔からわかっているものなんですか」
「ほかの人がどうかはわかりませんが、僕が気づいたのは大学生の頃でした。遅いのかもしれません」
門脇の正面、松下の背後にある時計が、ちょうど十二時を指した。