2015年09月29日
に終ったら
つぎの会議の時、町奉行が防備担当の家老に言った。
「松蔵の監督は依然つづけているのですぞ。部下の報告によると、貴殿は松蔵に庭の手入れをやらせ、大金を払い、なにごとか長い時間にわたって話しこんだとか。これはよろしくない。自分の忠実さを殿か若君に伝えてくれるよう、買収しようとなさったのでしょう」
「いや、決してそんなことはない。松蔵の正体は本当のところなんなのか、それを自分なりに調べようとしたまでのこと。買収だなんて、そんな卑劣なことはいたさぬ」
「しかし、貴殿はさかんに松蔵を切れと主張なさっていた。その穴埋めをしておきたくもなるのではなかろうかな。いちおう、いまのお言葉を信じておきましょう。で、ご自分で調べてみて、なにか判明しましたか」
「それがその、なにもわからぬ」
疑心暗鬼の空気がしだいに濃くなる。会議が開かれるたびに、それは一段とひどくなる。
「松蔵は、殿や若君のではなく、江戸家老のひとりがよこした隠密かもしれない。やがては城代家老となり、藩の実権をにぎろうと考え、いまの家老たちを失脚させる材料を集めさせているとも考えられる。ことのおこりは江戸からの手紙、殿の話ということにして江戸家老が作り
あげたものかもしれない。とすると、また対策もちがってくる。われわれは力をあわせ、そのたくらみに当らなければならない。内輪で争いはじめたら、それこそ思うつぼです」
「そうとわかれば、力をあわせましょう。しかし、そうだと判明したわけではないのですぞ。ことはもっと複雑かもしれない。ここの中奥においでのご側室と殿とのあいだのご子息も、いま江戸屋敷においでだ。ここのご側室は、殿のお気に入りだ。ご側室の父は、江戸屋敷で殿の
おそばにつかえている。なにか想像したくなりませんか。ご側室、その父、ご側室のご子息、これらが組んで殿をたきつけると、なにがおこるか。ご正室とのあいだの若君をさしおいて、こちらを正式の世つぎになおしかねない。松蔵はその連絡係、中奥に入れる立場にある点が、
どうも気になります」
外交と儀礼担当の家老が言う。
「お家騒動だな。となると、あの薬草、じゃま者を殺すための毒の作用を持つものとも考えられる。なんだか急に胸がむかついてきた」
「いずれにせよ、これは大陰謀。殿の判断ひとつできまる賭けです。隠居なさっている先代まで抱きこみ、もしこれが成功したら、松蔵にとりいってた者は、はぶりがよくなるでしょう。しかし、失敗、反対に反逆者の一味となって、重く罰せられる。えらい分れ道に立
たされてしまった。ご城代はどうなさるおつもりです」
「ううむ……」
と城代家老はうなるだけ。こうこみいってくると、思考がまるで働かないのだ。そのうち、だれかが城代にこう言う。
「こんなことを申していいのかどうかわかりませんが、ご城代は最初からなにひとつ決定を下さない。ただ、みなの発言を聞いているだけ。慎重を期しているともとれるが、そうでないともとれる」
「なにを言いたいのだ」
Posted by 〆み
at 10:27
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