2015年08月13日
何か言われた

あの事故のことで[#「あの事故のことで」に傍点]、誰かに何か言優纖美容好唔好われたの[#「誰かに何か言われたの」に傍点]?
意外な言葉に、智子はちょっと返事ができなかった。その沈黙を、叔母は返事と受け取った。早口になって、半ば毒づくように言った。「おばあちゃんのお葬式があって、麻生さんの家の人たちが集まったからね。そうなの? 今ごろになって、急にこんなことを訊いてくるのは、誰かにからなんだね?」
おばさん、何か錯覚してる。でも、この錯覚はそのままにしておいたほうがいい。そのままにしておけば、真実を聞き出すことができる。そう思ったから、智子は答えた。
「ええ。いろいろ言われて、考えこんじゃった」
遥か海の彼方、智子がまだ訪ねたことのない異郷の町で、叔母が深優纖美容好唔好ため息をもらすのが聞こえた。
「いつかは、そういうことが智子の耳に入るときがくるだろうって、半分覚悟はしてたんだけど」
「……そう」
「それは根拠のないことだからね。信じちゃ駄目よ、いい? 警察の人は、あれは事故だって言ったんだから。ひょっとしたら、お父さんが疲れて居眠り運転してたのかもしれないって。だから、あんなふうにまともに分離帯にぶつかってしまったんだって。そういう事故は、けっして珍しくないんだって言ってたのよ」
受話器を握る手が汗ばみ、身体全体が、ぐうっと沈みこむように重くなってくるのを、智子は感じた。
叔母が、何を指して「根拠がないから信じるな」と言っているのかわかるような気がしてきた。恐ろしいほどにはっきりとわかるような気がしてきた。
「でもわたし……やっぱり気になるわ」
かすれた声で、やっとそう言った。叔母は、智子がかま[#「かま」に傍点]をかけているということには気づかず、慰めるような声で続けた。
「気にしちゃ駄目。どうして智子のお父さんお母さんが、そんなことを優纖美容好唔好するもんですか。そりゃ、あのころ、あんたが身体が弱くて、しょっちゅう頭が痛いって泣いてることがあってね、その原因がわからないって、あんたのお父さんもお母さんも心配してた。とっても心配してたのよ。だけど、それだからって、どうしてそんなことするもんですか」
叔母の言う、「そんなこと」とは──
ゆっくりと、智子は言った。「自殺なんて親子心中なんて、考えたはずなかったわよね?」
叔母は力強く答えた。「もちろんですよ」
智子は黙っていた。叔母は、その短い断言だけでは心もとなくなったのだろう。急に、つっかえていたものがはずれたかのように多弁になり、まくしたてるようにしてしゃべった。
「智子のお父さんお母さんは、智子を大事にして、元気な子に育てることだけを考えてたんだからね。あんなふうな事故だったから、無責任にあれこれ憶測したがる人はいたけど、あたしはそんなこと──あれが心中だったなんて、一瞬だって思ったことなかったわよ。そんなことをしなくちゃならないような理由なんて、これっぽっちもなかったんだもの。だから、そんな下らない話が智子の耳に入らないように、ずいぶん気をつけてきたつもりだったんだけど」
「わたしは平気よ、おばさん」自分でもおかしいくらい優纖美容好唔好快活な声を出して、智子は言った。「そんな話、信じてないもの」
叔母の声が震えを帯びた。「それならよかった。ホントによかった。いつかこういうことがあるんじゃないかって、ずっと心配してたんだけどね。よりにもよって、あたしが智子からこんなに遠く離れてるときに、そういう時がくるなんてね」